knowledge シリーズ|新型コロナとRPA(3)~ソーシャルディスタンスについて考える

「ソーシャルディスタンス」という言葉は、かなり広範に社会生活に溶け込んできたように思えます。スーパーへ行けばレジを待つ人と人の間隔が一定程度保たれるようになっていますし、路上で人と人とが行き交う時は、従来以上に距離を作るようになっています。

ソーシャルディスタンスという言葉が日本でいつから使われるようになったのかは定かではありませんが、おそらく「3つの密(密閉・密集・密接)を避けましょう」というメッセージが行政から発信された3月後半からでしょう。厚生労働省は3月28日にポスターを公表し、新経済連盟(代表理事:三木谷浩史 楽天代表取締役会長兼社長)は4月3日に「新型コロナウイルス感染拡大抑止に向けて啓発活動を推進します」というプレスリリースを発表し、あわせて「ソーシャルディスタンスのお願い」と題する動画とポスターを公開しています。

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https://www.youtube.com/watch?time_continue=9&v=cUJbdH9V8Fg&feature=emb_logo

ソーシャルディスタンスの行動規範は、言葉から言って米国由来ものと思われます。

米国では2月に、米疾病予防管理センター(CDC)が新型コロナの感染拡大を防ぐためのガイドラインを公表しています(1月30日に米国内で初めて新型コロナの人から人への感染を確認)。その中で、「ソーシャルディスタンスとは、家族(同居)以外の他人と物理的な距離を保つこと」として、次のように明記しています。

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・他人から少なくとも6フィート(約2メートル、両腕を広げたくらいの長さ)離れる
・グループで集まらない
・混雑した場所に近寄らず、人混みを避ける

・Stay at least 6 feet (about 2 arms'length) from other people
・Do not gather in groups
・Stay out of crowded places and avoid mass gatherings
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このあたりが、日本のソーシャルディスタンス提唱の情報ソースだろうと思われますが、実はCDCの「新型コロナサイト」では、上記のような個人の振る舞い方だけでなく、日常生活、学校、職場、コミュニティ、旅行、ホームレスなど場面別・状況別に細かく分けてソーシャルディスタンスの取り方を具体的に示しています。

たとえば、「職場」の項の「企業および雇用主が新型コロナに備え応答するための暫定ガイダンス(Interim Guidance for Businesses and Employers to Plan and Respond to Coronavirus Disease 2019 (COVID-19))では、次のように記されています。

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Consider establishing policies and practices for social distancing. Social distancing should be implemented if recommended by state and local health authorities.

ソーシャルディスタンスを確保するための方針と実行指針の確立を検討してください。州および地方の保健当局から推奨されたら、ソーシャルディスタンスを導入すべきです。
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そして「業務において適用できる戦略(Strategies that business could use include)」として、以下を挙げています。

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・Implementing flexible worksites (e.g.,telework)
・Implementing flexible work hours (e.g., staggered shifts)
・Increasing physical space between employees at the worksite
・Increasing physical space between employees and customers (e.g., drive through, partitions)
・Implementing flexible meeting and travel options (e.g., postpone non-essential meetings or events)
・Downsizing operations
・Delivering services remotely (e.g. phone, video, or web)
・Delivering products through curbside pick-up or delivery

・多様な働き場所の導入(例:テレワークなど)
・多様な勤務時間の導入(例:時差勤務など)
・職場における従業員間の物理的スペースの拡大
・従業員と顧客間の物理的スペースの拡大(例:ドライブスルー、パーティションなど)
・会議および出張の可否の柔軟な判断(例:緊急を要しない会議・イベントの延期など)
・業務の縮小
・リモートによるサービスの提供(例:電話、ビデオ、Webなど)
・カーブサイドを利用する商品の集荷・配送 (*カーブサイド:米国で普及しつつある新タイプの集荷・配送サービス)
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◎CDCの「新型コロナサイト」(英語)へのリンクはこちら

日本の行政はソーシャルディスタンス(3密の回避)を、主として個人へ向けて働きかけていますが、米国では個人を含め“全方位”と言える施策を取っています。

米国ではCDCのソーシャルディスタンス・ガイドラインを受けて、労働省の労働安全衛生局(OSHA:Occupational Safety and Health Administration)が3月9日に32ページから成る「新型コロナに備える職場のためのガイダンス(Guidance on Preparing Workplaces for COVID-19)」を発表し、対策に乗り出しています。

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◎OSHAの「新型コロナに備える職場のためのガイダンス」(英語)へのリンクはこちら

目次は次のようになっています。

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・About COVID-19
・How a COVID-19 Outbreak Could Affect Workplaces
・Steps All Employers Can Take to Reduce Workers' Risk of Exposure to SARS-CoV-2
・Classifying Worker Exposure to SARS-CoV-2
・Jobs Classified at Lower Exposure Risk (Caution):What to Do to Protect Workers
・Jobs Classified at Medium Exposure Risk:What to Do to Protect Workers
・Jobs Classified at High or Very High Exposure Risk:What to Do to Protect Workers
・Workers Living Abroad or Travelling Internationally
(以下、略)

・新型コロナについて
・新型コロナの発生が職場に与える影響
・従業員の感染リスクを削減するために雇用主が取るべき手順
・新型コロナに感染する脅威の度合いによる職種の分類
・脅威が低レベルに分類される職種の従業員に対する防御策
・脅威が中レベルに分類される職種の従業員に対する防御策
・脅威が高レベルまたは超高レベルに分類される職種の従業員に対する防御策
・海外勤務または海外出張する従業員に対する防御策
(以下、略)
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このうち最もページを割いて解説しているのが、「従業員の感染リスクを削減するために雇用主が取るべき手順」のパートです。この中で、「ソーシャルディスタンス戦略の活用を推奨する」として、次の項目を挙げています。

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・Encouraging sick workers to stay at home.
・Minimizing contact among workers, clients, and customers by replacing face-to-face meetings with virtual communications and implementing telework if feasible.
・Establishing alternating days or extra shifts that reduce the total number of employees in a facility at a given time,allowing them to maintain distance from one another while maintaining a full onsite work week.
・Discontinuing nonessential travel to locations with ongoing COVID-19 outbreaks. Regularly check CDC travel warning levels at: www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/travelers.
・Developing emergency communications plans, including a forum for answering workers’concerns and internet-based communications, if feasible.
・Providing workers with up-to-date education and training on COVID-19 risk factors and protective behaviors (e.g.,cough etiquette and care of PPE).
・Training workers who need to use protecting clothing and equipment how to put it on, use/wear it, and take it off correctly, including in the context of their current and potential duties. Training material should be easy to understand and available in the appropriate language and literacy level for all workers.

・病気の従業員に自宅にいるように勧める。
・従業員同士、従業員とクライアント、従業員と顧客間の対面接触を最小限に抑えるために、可能ならばテレワークや仮想コミュニケーションを活用する。
・職場での就業を維持しつつ従業員同士がソーシャルディスタンスを確保できるようにするために、同一時間に働く従業員数の削減を目的に、勤務日や勤務時間のシフトを行う。
・新型コロナの感染拡大が続く地域への不急の出張を取り止める。各地域の警告レベルは、https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/travelersでチェック。
・従業員と緊急コミュニケーションを行うための計画を策定する。可能ならば、従業員の懸念に応えるためのフォーラムやインターネットベースのコミュニケーションの導入を織り込む。
・新型コロナの脅威に関する最新の教育・訓練機会や防御行動に関する情報の従業員への提供。
・防護服や保護具を使用する必要がある従業員に、職務のさまざまな状況を想定して、その着脱方法や利用方法についてトレーニングを実施する。トレーニング資料は、すべての従業員が容易に理解できるレベルの説明と言語で作成されなければならない。
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日本でも新型コロナ対策としてテレワークの積極的な活用が、総務省や厚生労働省などから提唱されています(下画面は、総務省「新型コロナウイルス感染症対策としてのテレワークの積極的な活用について」ページ)。しかし、米国のような働くさまざまなシーンを想定したガイドラインやガイダンスは見当たりません。

◎総務省「新型コロナウイルス感染症対策としてのテレワークの積極的な活用について」へのリンクはこちら

これには、日米の企業文化や従業員の仕事に対する意識の違いが反映していることもあるでしょう。しかし、このコラムで考えたいのは日米の対策や文化の違いではなく、新型コロナの収束が長期化すれば、あるいは新型コロナのような感染症が常に身近にあるような社会を想定したならば、米国労働安全衛生局(OSHA)の「新型コロナに備える職場のためのガイダンス」が示すような、あるいは、それをさらに厳密にした働き方や企業活動が不可避になるのではないか、ということです。

このことは、政府「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」が5月1日に発表した「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」にもはっきりと示されています。

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(1)感染拡大を予防する新しい生活様式の普及

・新型コロナウイルス感染症とともに生きていく社会を前提とした場合、「新規感染者数が限定的となった地域」であっても、感染拡大リスクが高い「3つの密」を徹底的に避けるとともに、手洗いや身体的距離確保といった基本的な感染対策の実施を継続していくことは不可欠となる。
また、仕事・職場の面においても、基本的な感染対策に加え、テレワーク、時差出勤、テレビ会議など接触機会を削減するための対策は、引き続き重要になる。こうした感染拡大を予防する新しい生活様式を身につけていくことが求められる。

・併せて、各事業者も、感染対策を講じていくことが求められるため、次の専門家会議で示す基本的な考え方を参考としながら、各業界団体が中心となって、業種毎のガイドライン等の作成に向け、検討していくことが重要である。
(以下、略)
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◎「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」へのリンクはこちら

「新しい生活様式」と提言は言います。その具体的かつ現実的な像は明確ではありません。しかし、今は生活の仕方や働き方、働く環境が過渡期にあり、それはソーシャルディスタンスを前提とする様式へと変わっていく方向にあることは確実でしょう。

今、人と人との対面接触を回避しつつ事業を継続する手段として、デジタル技術の活用を改めて考えるべき時期に来ていると思えます。次回は、そのことについて触れてみます。(2020.5.4)

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◎シリーズ|新型コロナとRPA◎CONTETS
シリーズ|新型コロナとRPA(1)~RPAはどのような認識の下に活用すべき?
シリーズ|新型コロナとRPA(2)~RPAをめぐる経済環境の激変
シリーズ|新型コロナとRPA(3)~ソーシャルディスタンスについて考える